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多様な薬学領域で活躍できる薬剤師を輩出する近畿大大学院薬学研究科。
今回は大学院のコースのひとつである「地域医療薬学講座」について、本学の川畑教授にお話を伺いました。
川畑 篤史(かわばた あつふみ)さん
▼ご経歴
近畿大学薬学部卒。同大学院修了後、助手勤務。講師、助教授を経て2005年より教授。1996~1997年カルガリー大学医学部研究員。2008~2012年、2016~2020年薬学研究科長、2020より医療薬学科長。
▼現在の仕事内容
痛みや抗がん剤副作用に関する基礎研究と臨床データ解析研究。
※掲載写真:(株)スギ薬局取締役ウェルネス事業部長 清水一郎(左)
近畿大学薬学部長 岩城正宏(いわきまさひろ)(右)
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この記事の目次
1.臨床研究のアドバンスに位置づけられる「地域医療薬学講座」
ーはじめに、この地域医療薬学講座を導入した背景についてお聞かせください
薬学部の4年制から6年制への移行にともない、卒業後に進学する大学院が2年制の修士課程から4年制の博士課程へと変わりました。 このため(大学院修了時の年齢や経済的な問題などのため)全国的に大学院進学者数が激減しました。
近畿大学では当初よりこの点について問題意識をもち、諸問題を少しでも解決し、6年制薬学部を卒業した学生にとって魅力ある大学院コースの設置を模索していました。 その結果、4年間の大学院生活で臨床研修・研究と基礎研究の両方を進めていく連携講座をスタートさせることになりました。 これまで近畿大学病院、同奈良病院、国立循環器病研究センターおよび堺市立総合医療センターなどの病院との連携講座を開講していました。今回、初めて薬局との連携講座として地域医療薬学講座を開講し、2020年度から院生の受け入れが始まりました。
近畿大学病院や同奈良病院との連携講座では、最初の1年間は薬学部の所属研究室での基礎研究、あとの3年間は月~金は病院のレジデントとして薬剤師業務に携りつつ研修・研究を進め、土曜日は薬学部に戻って基礎研究を継続します。
このように基礎研究と臨床研究を両立し、研究力をもつ病院薬剤師を輩出する講座として位置づけている次第です。
ですが今は薬学部の卒業生のなかでも、少しずつ病院だけでなく薬局に就職する方も増えてきたんです。 この流れをふまえ、薬局関係においてもアドバンスの研究コースを作るべきではないかと考え、スギ薬局さんと協力関係を結びスタートしたのがこの「地域医療薬連携講座」になります。
-どのような流れでスギ薬局との連携に至ったのでしょうか
現薬学部長が薬局関連の学会の役員をされていて、そこでスギ薬局で研究をされている方と交流があったようです。
本学には病院出身の実務家教員はたくさんおられるんですが、薬局出身の方が在籍しておらず、OTCや地域医療・在宅医療に関するプロがいませんでした。
そこで、本学に欠けていた薬局関連の学部教育のお手伝いをしていただく目的でスギ薬局との連携を模索していました。
その議論の中で、大学院の教育・研究面でも連携を深めていくことになり、本講座の開講に至ったわけです。
地域医療の連携講座を作りたいという想いが先にあり、偶然そこに学部レベルでスギ薬局との連携が話題になったことが重なって、包括提携のような形での協力体制が構築できました。
今はまだ大学院に進学する学生が少ないのでスギ薬局のみと連携しておりますが、決して連携先を限定しているわけではありません。 いずれは複数の薬局と連携し、門戸を広げて多くの学生に受講してもらいたいと考えています。
2.基礎研究×臨床でファーマシスト・サイエンティストとしての素養を身につける
ー具体的に本講座の概要や学習内容を教えてください
一言でいえば、4年間かけて薬剤師業務と博士課程の臨床・基礎研究を極めていく講座といえます。
本学の薬学研究科薬学専攻には3つのコースがありまして、他大学の大学院にもある基礎研究がメインのコースに加えて、臨床研究・研修と基礎研究を行うコースがあり、この中に病院と連携講座を開いているコースとこの地域医療薬学連携講座があります。
病院との連携講座では、原則、2年生からレジデントとしての臨床研修・研究が始まるのですが、地域医療薬学連携講座では1年生から薬局での臨床研修・研究が始まります。入学直後より、薬局において調剤や在宅などの薬剤師業務を学びながら、臨床研究の準備を進めてもらいます。 週3日間レジデントとして薬局で働き薬剤師業務と在宅業務に携わり、残りの3日は大学の研究室において基礎研究を進める、といった時間の使い方ですね。 基礎研究と臨床研究を並行して進めるなかで両者のテーマを結びつけ、学位論文の発表を目指すのが本講座のゴールになります。
ー講座について受けた方の感想などあれば知りたいです
ちょうど今年(2020年度)の4月に学生が1名入学したのですが「とにかく忙しい」という声を聞きます。 薬局で働きながら臨床と基礎の研究を同時に進めていくのは容易ではありません。特に今年はコロナの影響もあり、基礎研究は停滞しましたし、臨床研究の方は研究内容の根本的見直しが必要になったものもあるようで、とにかく忙しかったようです。 薬局での業務も給料をもらっている以上、相応の価値を発揮することが求められますから、かなり大変なスケジュールなのではないでしょうか。
ーこの取組みの意義はどういった点にあるとお考えでしょうか
大学院への進学者が増えるキッカケになればと思っています。
6年制の薬学部を卒業したのち4年間大学院に通うには、年齢的な面はもちろん、経済的な基盤も必要になります。
従来の4年制の薬学部では基礎研究をメインで行なっていましたが、6年制に移行してからは臨床教育にかなり力を入れています。
そのため学部での臨床に関する学びをさらに深める、いわゆるアドバンスの臨床研究を行う大学院が必要だと思うんです。
さらに、臨床研究だけでなく、基礎研究を通じて論理的思考力や英語論文の作成力を養い、それらを相互に活かすことでファーマシスト・サイエンティストとしてのスキルがつくと考えています。 基礎研究で必要とされる知識や考え方を身につけたうえで臨床に移行した方が、将来的に高度な臨床業務や臨床研究を行うスキルが伸びると確信しています。 例えば、薬に関するリスクを単なる現象論で終わらせるのではなく、「なぜそれが起こってしまったのか?」まで追求し、深掘りできる薬剤師を育てたいですね。
3.リサーチマインドを持ち、グローバルに活躍できる人材を輩出したい
ーほかにも大学院の特徴があれば教えてください
まずひとつは学びのバラエティに富んでいる点です。
話が重複しますが、基礎研究を行う通常のコースに加えて、募集枠は少ないものの病院や薬局の連携講座が整備されていますので、そこで基礎研究と臨床を学べます。
基礎研究と臨床の接点を持たせるよう意識しており、基礎研究の学びを臨床に、臨床の学びを基礎研究に、相互に活かせるような学びの体制を整えています。
もうひとつは、グローバルに活躍できる人材育成に力を入れている点です。 大学院のなかで英語教育を取り入れている大学は少ないのですが、本学ではネイティブの先生が教鞭を執り、国際学会におけるプレゼンテーションや発表内容に関する指導をしています。
ー最後に、この記事を読む薬剤師にメッセージをお願いします
病院との連携講座は基本的に本学薬学部の6年生をメインの対象としていますが、今回お話した地域医療薬学講座に関しては外部の方でも受講可能です。 薬局薬剤師として地域医療に携わり学位を取りたいのであれば、社会人入学をしていただいて臨床での研究を進めていただきたいですね。リサーチマインドを持った薬剤師として自分を高める良い機会になると思います。
国内にとどまらず、国外に向けて英語で論文を発信できるところまで自分自身を高めてもらえれば嬉しいです。自力では身に着けにくい研究のエッセンスを学び、グローバルに通用する薬剤師にステップアップするためにも、是非、本学の大学院を活用してください。
写真提供:近畿大学
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