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今回は、青年海外協力隊の薬剤師隊員として、パプアニューギニア国立ポポンデッタ総合病院で活動する山内貴(やまうち・たかし)さんにお話を伺います。
青年海外協力隊とは 1965年に日本政府の事業として発足した国際ボランティア事業。日本と開発途上国の人々をむすぶ架け橋として、互いの知識や経験を活かした協力をすすめ、平和で豊かな世界の実現を目指す。JICAボランティア:公式HPはこちら⇒
▲山内貴(やまうち・たかし)さん※写真右上
薬学部を卒業後は大学病院で約9年間働いたのちに、「今しかできない何か」を求め満を持して青年海外協力隊に応募。2016年10月より、パプアニューギニア国立ポポンデッタ総合病院において薬剤師としての活動に全力を注いでいる。
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もっと自分にできることがあるはず
―― 山内さんは現在、パプアニューギニア国立ポポンデッタ総合病院で活動中ということですが、薬剤師として主にどのような業務をなさっているのでしょうか?
山内さん:外来の患者さんに薬の説明をして処方箋を渡す、いわゆる調剤薬局に勤めている薬剤師がイメージに近いと思います。
僕が活動をはじめたばかりの頃は、薬が入った段ボールが倉庫やら室内やらいろんな場所に無造作に置かれていたりで、在庫管理が行き届いていない状態でした。
そのため、業務の効率化を目的に現地スタッフと積極的にコミュニケーションをとりながら、在庫管理の提案などもするようにしています。
―― 海外で生活するとなると、言葉の壁など心配な事もたくさんあると思うのですが、不安はありましたか?
山内さん:言葉が通じるかどうかが一番不安でしたが、派遣までの約70日間、長野県にある訓練所でみっちり語学研修を受けたので、思いのほか平気でした。語学研修だけではなくて、安全管理や国際協力の意義についてを学ぶ研修などフォロー体制がきちんと整っていたので、それほど不安なことはありませんでした。
―― 現地の病院で活動するなかで一番困ることは何ですか?
山内さん:一番困っているのは、薬が足りないことです。毎日外来だけで200〜300人くらいの患者さんが薬をもらいにくるので、どうしても全員に薬を供給できないケースも発生してしまう。というのも、僕が今活動しているパプアニューギニア国立ポポンデッタ総合病院は、薬がタダでもらえるんです。
―― 薬がタダ?
山内さん:はい。たとえば、街の薬局で抗生物質1週間分を買ったとしましょう。日本円で計算するとその値段は、大体500〜1000円くらい。でもこの金額って、現地の人の1日分のお給料に匹敵するんです。高いお金を出して買うよりも、タダでもらえる方が経済的なダメージが少なくて済みますからね。
―― でも、パプアニューギニアって平等意識が非常に強い民族だと聞いたことがあります。薬をもらえなかった人に分けてあげる、ということもありそうな気がしますが……。
山内さん:はい。その平等意識の強さが問題でもあるんです。「WANTOK(ワントク)」という言葉があり、これは『同じ言葉を話す集団』を意味するピジン語。ピジン語というのは、英語を崩したような少し訛りのある言語で、こちらでは英語とピジン語の両方が公用語として使われています。
―― ワントクと薬の供給不足にどんな関係があるんですか?
山内さん:「WANTOK(ワントク)」は、英語の「ONE(ワン)」「TALK(トーク)」に由来しているんです。パプアニューギニアは、同じ言語を話す部族への仲間意識が非常に強い。つまり、たとえ血がつながっていなくても、部族が同じであれば自分の家族としてみなすわけです。そのため、ワントクのために多量の薬を要求してくるケースも多く、またそれを文化的に許してしまうのです。
助け合いの精神は素晴らしいです。それに、自分の家族にも平等に薬を与えたいと思う気持ちはよくわかります。ですが、仲間意識が強すぎるあまり、本来薬をもらえるはずであった人に薬を供給できない、という事態を招いてしまう。また、ワントク間で薬を分け合ってしまうことは、薬の不適切な使用の温床であることが容易に想像できます。
―― 昨日今日で簡単に解決できる問題ではないですね。
山内さん:朝から並んでくれた患者さんを返してしまうのは、本当に心苦しい。在庫管理には気をつけるようにはしていますが、発注をかけた薬が病院に届くまで2〜3ヶ月かかる、なんていうのはこちらではごく普通にあります。
大切なのは現地の医療スタッフの苦労を共有すること
―― パプアニューギニアで薬剤師として活動するなかで、山内さんが得られたことは何でしょうか?
山内さん:苦労を共有することの大切さでしょうか。現地の医療スタッフに対して、突然来たよそ者の僕が急に「ああしろこうしろ」って自分のやり方を一方的に押し付けるのは、おこがましい。現地の薬剤師や医療スタッフがこれまでずっと同じやり方を貫いてきたのには、ちゃんと彼らなりの考えがあってのことです。
だから、まずは、彼らと同じ目線に立ち同じやり方でやってみる。もしそれで本当に変えた方が良いのであれば、コミュニケーションを取りながら理想のカタチに近づけていけばいい。
―― コミュニケーションが活発になれば、スタッフとの信頼関係や絆も強くなりますね。パプアニューギニアで活動をはじめる前と後で、心境の変化などはありましたか?
山内さん:うまく言えないのですが、今あるものでできることをやればいい。自然とそう思えるようになりました。僕が今活動しているパプアニューギニア国立ポポンデッタ総合病院には測りがないので、当然ながら処方する薬は錠剤、カプセル、液体の3種類のみ。
薬をパッキングするときに使う専用の機械だってないし、薬を数えるのも全て手作業でやってます。環境に順応しながら、ないなりに何とかしようという気持ちを持てるようになったのは大きい。
僕もようやく医療現場の現状を把握できるようになってきましたが、薬剤師としての海外での活動は、まだまだ手探りな部分がたくさんあります。薬を発注してから届くまで数ヶ月かかることや国自体で薬が不足していることなど、まだまだ課題は山積みです。
現地スタッフへの理解なども含め、時間やパワーはかかりますが、お互いにプラスになる部分は必ずあると信じています。
まとめ
日本でも医療従事者の不足が叫ばれていますが、海外に目を向けると薬の供給すらままならず、病院にも行けないほどの貧困状態に追い込まれている人々はたくさんいます。
今回、山内さんにお話を伺い、言葉の壁や薬不足の問題など、現場で働いているからこそ見えてくることがあるのだと改めて感じました。そしてそれはきっと、今後の薬剤師人生を送るうえで価値ある経験となるはずです。
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